郊外マンションはオワコンなのか? -都心タワマン暴騰の日陰で-(3)

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本論考は、「都心タワマンが栄華を誇る一方で、郊外マンションに“次の夢”は残されているのか」という問いを手がかりに、郊外マンションは本当に“オワコン”なのかを考える試みである。前回は、この問いに向き合うにはまず歴史的な文脈を押さえる必要があると考え、東京とその周辺がどのように人々に住まわれ、住宅供給や人口移動の変化を通じて現在の都市構造が形づくられてきたのかを整理し、議論の出発点とした。今回はその続きとして、戦後に東京圏がどのように拡大し、どんな住居・通勤構造が「都心優位」を支えてきたのかにスポットライトを当てながら、話を進めていきたい。

東京圏拡大の歴史

「東京一極集中」の正体、なぜ人は吸い寄せられ続けるのか?

住宅需要の「土台」を人口動態から読む

東京圏(首都圏)の住宅供給を論じる前提として、まず戦後の人口動態を押さえておきたい。なぜなら、住宅需要の総量は、究極的には「そこに住む人がどれだけいるか」で決まるからだ。

第二次世界大戦後、日本社会は急速な都市化の波にさらされ、地方から都市部への人口移動が加速した。とりわけ高度経済成長期(1950〜60年代)には、東京圏(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)への人口流入が顕著となり、地方からの転入者が転出者を大きく上回る状況が続いた

たとえば1960年代前半、わずか5年間における東京圏の純流入は約186万人に達している。これは当時の東京圏の人口増加分の約半分を占める凄まじい規模である。このような現象は「向都離村」と呼ばれ、戦後日本における都市一極集中の典型例として位置づけられてきた。 実際、数字を見ればその爆発力は明らかだ。1950年に約1,300万人だった一都三県の人口は、1970年には約2,411万人へと膨らみ、わずか20年で80%超の増加を示したのである。

バブル、そして2000年代の「再加速」

その後、経済成長の鈍化とともに1970年代には人口の流入超過が一時的に縮小する。しかし、都市の吸引力が失われたわけではなかった。 1980年代のバブル景気を背景に再び増加に転じると、2000年代前半にも5年間で約70万人の純流入が見られるなど、都市への集中傾向は持続・再強化された

結果として、2005年には一都三県の人口が約3,448万人、2010年には約3,562万人、2019年には約3,700万人(全国人口の29.1%)に達しており、戦後から現在に至るまで「東京圏への集中」というトレンドは根強く続いていることがわかる(図1)。

さらに、国土を11地域に区分したブロック別人口のシェア推移をみると、この傾向はより残酷なほどに明確である。 南関東(すなわち一都三県)のみが顕著にシェアを拡大し続けているのに対し、他の地域は横ばいか縮小傾向にある。首都圏がいかに強力な「人口吸引力」を持ち続けてきたかが裏付けられるデータだ(図1)。

  • 図1 首都圏の人口推移(1950-2010) (内閣府資料『地域の経済 2011』補論1「戦後の首都圏人口の推移」[14]より引用)
  • 図2 ブロック別人口のシェア推移(1873年–2010年) (国土交通省「東京一極集中の状況等について」[15]より引用)
図1 首都圏の人口推移(1950-2010)
図2 ブロック別人口シェア(1873-2010)

東京のピークは2035年? この時間差が鍵になる

もっとも、これまで一貫して拡大を続けてきた東京圏も、いよいよ人口減少という歴史的な転換点に差しかかりつつある。 ただし、ここで重要なのは「変化のスピード」と「地域差」だ。地方圏と比べると東京圏の人口減少は極めて緩やかであり、依然として高い人口集積を維持している点が特徴である

とりわけ不動産需要の中心となる「区部(東京23区)」に限れば、人口は2035年に1,005万人でピークを迎えると予測されている。 つまり、日本全体が人口減少社会に突入している中にあっても、東京の中心部は今後10年間はむしろ人口増加が見込まれているのである(図3)。

この「当面は増え続けるが、いずれ減る」という10年単位の時間差こそが、東京圏の住宅需給、そして不動産価格の動向を理解する上で最も重要な鍵となるだろう。

  • 図3 全国と東京都の人口推移見込(2050 東京戦略 附属資料 東京の将来人口 [16]より引用)
図3 全国と東京都の人口推移見込
目次

東京圏の特徴

東京圏に住む人々の特徴、「通う都市」がつくる住宅需要

世界的に特異な通勤都市、東京

東京都心部では、昼間人口が夜間人口の数倍に達するなど、昼夜間の人口密度差が極めて大きい。これは、都心部が「住む場」よりも「働く場」としての機能に強く特化していることを示唆しており、居住人口が中心部に相対的に厚いニューヨークやパリ等の都市と対照的である(図4)。こうした都市構造のもと、東京圏では膨大な数の人びとが毎日、都心へ向けて長距離移動を行い、その通勤の多くが鉄道に依存している。

  • 図4 主要都市の昼夜間人口密度(国土交通省 第 6 回首都高速の再生に関する有識者会議 参考資料[17]より引用)
図4 主要都市の昼夜間人口密度

一方、国内の他の大都市圏――たとえば福岡や札幌等――では、中心部へのアクセス手段として徒歩・自転車の比重が高く、職場と住居の距離が近い「職住近接」の傾向が、東京圏よりも相対的に強い。日常的に大規模な人口移動が発生するという意味で、東京圏の通勤偏重型の都市構造は、国内でも特異な現象と位置づけられるだろう。こうした状況に対し東京都は近年、都心部への定住を促進する政策として「アフォーダブル住宅政策」打ち出している[19]。

東京に多い世帯構成は?

都心部に居住するファミリー世帯の構成を見ると、一人っ子世帯が約4割を占める一方で、子どもが3人以上の世帯は約15%にとどまる。また一般に、妻は夫よりも職住距離の短い職場を選ぶ傾向があるとされる[20]。一方、都心隣接で共働き世帯の多い豊洲エリアを例にとると、夫婦ともに都心で勤務するケースが多数を占め、夫婦単位での職住近接が実現していることが示されている[21]。

さらに、地方から東京への人口流入が全体として鈍化しているにもかかわらず、特定の地域、例えば豊洲地域では、住民の約半数が地方出身者であるという[21]。以上を総合すると、都心部マンションの購入層には、高学歴・高収入・共働き・ホワイトカラー・一人っ子世帯、加えて一定数の地方出身者といった属性が確認できる。加えて、相続や二次取得等を契機に、既存のマンション売却益を原資として住み替える世帯も一定数存在している点は、住宅市場における“資産循環”の存在を示すものとして重要である。

東京圏に集中するタワーマンション

人口3割に対し、タワマンは5割。「供給の偏在」が価格を押し上げるメカニズム

日本のタワマンの「半分」は東京23区にある

現在、首都圏(1都3県)の人口は3,693.9万人であり、これは日本の総人口の29.3%にあたる。しかし、こと「タワーマンション(超高層マンション)」の立地に関しては、人口比をはるかに超える異常な「偏在」が起きている。

株式会社不動産経済研究所のデータによれば、全国で建設・計画されている超高層マンション(20階建て以上)は、合計270棟・9万7,141戸である。このうち、首都圏は168棟・7万2,252戸を占め、全国シェアは**74.4%に達する。 さらに驚くべきは、東京23区への集中度だ。23区内だけで112棟・4万8,613戸が計画されており、これは全国全体の50.0%に相当する(図5、表1)。

つまり、日本の人口の3割しかいない首都圏にタワマンの7割以上が集中し、さらにその中心である23区に日本のタワマンの半分が建設されるという、二重の集中構造が存在しているのである。

  • 図5 超高層マンション竣工・計画戸数(首都圏)(超高層マンション動向 2025[22]より引用)
  • 表1 首都圏超高層マンションの立地別内訳 (超高層マンション動向 2025[22]より引用)
図 13 超高層マンション竣工・計画戸数(首都圏)
表 2 首都圏超高層マンションの立地別内訳

「都市再生」政策と供給の減少が生む価格上昇

なぜこれほどまでに偏在したのか。それは1990年代以降、政府の都市政策が「郊外開発」から「都市再生」へと大きく舵を切ったことと無関係ではない。規制緩和によって駅前再開発が進み、都心部での超高層住宅供給が国策として促進された結果である

しかし近年、その供給戸数は減少傾向にある。供給が絞られる中で、再開発物件ゆえに立地は極めて良い(駅直結・直上など)。「希少性が高い×好立地」という条件が重なれば、価格が上昇するのは市場の必然である

中古相場を引き上げる「アンカー効果」

この新築価格の高騰は、中古市場にも波及する。市場には、新築価格が「アンカー(価格の基準点)」として作用し、それに引っ張られる形で中古価格も上昇するというメカニズムが働くからだ。

実際、東京23区の中古マンション価格は上昇を続けており、70㎡換算で平均9,000万円超の水準に達している(図6)。 新築の供給が限られ、かつ高額化する中で、その余波は中古市場全体を押し上げ、東京のマンション価格をかつてない次元へと引き上げているのである。

  • 図6 中古マンション価格の動向(東京カンテイ プレスリリース[24]より引用)
図6 中古マンション価格の動向(東京カンテイ プレスリリース[24]より引用)

参考文献:
[14] 内閣府資料 地域の経済 2011 補論1 1.戦後の首都圏人口の推移
[15] 国土交通省資料 東京一極集中の状況等について
[16] 2050 東京戦略 附属資料 東京の将来人口
[17] 国土交通省 第 6 回首都高速の再生に関する有識者会議 資料 4 提言書 参考資料集(案)《参考 首都高速の再生の論点》 3. 今後の首都の交通戦略との連携(P25~P35)
[18] にゃんこそば、宮路秀作[監]『ビジュアルでわかる日本』(SB クリエイティブ)2023
[19] 楽待(不動産投資新聞):東京都が 100 億投じる新政策、相場の 8 割で貸す「アフォーダブル住宅」は住宅弱者を救うか
[20] スーザン・ハンソン、ジェラルディン・ブラット、西村雄一郎[訳]『都市地理学における職住関係の再概念化、空間・社会・地理思想』4:74–93.1999
[21] 小泉諒、西山弘泰、久保倫子、久木元美琴、川口太郎『東京都心湾岸部における住宅取得の新たな展開 ―江東区豊洲地区の超高層マンションを事例として―、地理学評論』84–6 592–609.
(2011)
[22] 不動産経済マンションデータ・ニュース 2025.5.22 超高層マンション動向 2025
[23] 住田昌二『21 世紀のハウジング <住宅政策>の構図』(ドメス出版)2007
[24] 東京カンテイ プレスリリース/中古マンション価格 2025.5.22

<続く>

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