内廊下に、風は吹くか

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注記:この小説は、Chat GPT5.2で作成された原案をGemini 3で修正をかけて作成しました。

プロローグ:大宮、風の改札

大宮駅のコンコースは、いつだって風がいる。
改札の向こうから来る人波が、見えない手で空気を撹拌して、プラットフォームの匂いと、焼き菓子の甘さと、雨の予感を混ぜ合わせる。

梶原ユイは、その風に背中を押されるたびに思い出す言葉があった。
――内廊下は、季節を消す。

東京でタワマンのコピーを書いていた頃、「内廊下」は、ホテルライク、上質、静謐、そういう便利な形容詞の集合体だった。けれど埼玉でその言葉は、少しだけ違う響きになる。
“埼玉で内廊下?”
誰かが冗談みたいに言い、誰かが本気で羨ましがり、誰かが鼻で笑う。

ユイはスマホを握りしめる。取材メモの見出しにはこうある。
「埼玉・内廊下伝説:新都心→浦和→武蔵浦和→川口→川越」

風の街で、季節のない廊下の話を集める。
その仕事が、こんなにも面倒で、こんなにも面白いなんて、まだ知らなかった。


第一章:さいたま新都心、季節のない廊下

北与野の駅を出ると、街は直線でできていた。歩道の幅、植栽の間隔、ビルのガラスの角度。すべてが“正しい”。正しい街は、感情を置き去りにする。

ユイが訪れたタワーのエントランスには、静けさが飾ってあった。
コンシェルジュの高瀬が、制服の皺ひとつない笑顔で言う。

「お荷物は、こちらへ。……廊下は、内廊下ですので」

エレベーターを降りた瞬間、ユイは確かに思った。
空気が、室内のものだった。
窓のないホテルの廊下と同じ、温度と湿度。足音が吸われる絨毯。壁の向こうの生活音は遠い。
風がいない。

「住み心地はどうですか?」

ユイが住民の女性に尋ねると、彼女は少しだけ笑う。

「いいですよ。誰にも会わないから。……会うと、面倒でしょ?」

“会わないための廊下”。
それが、豪華さの正体のひとつだと、ユイは知っている。

けれど、その日ユイは別の住民から、まったく逆の話も聞いた。

「内廊下ってね、噂が濃くなるの。外が見えない分、人の気配だけが残るから」

気配だけが残る。
つまり――季節の代わりに、他人がいる。

ユイはメモに書いた。
内廊下=孤独の遮音/噂の増幅器。


第二章:浦和、“誇り”と“埃”のあいだ

浦和駅西口は、言葉が先に歩いている街だった。
誇り、文教、落ち着き。
それらの言葉が、現実より先に人の顔をつくる。

ユイがカフェで打ち合わせをしていると、隣の席のママたちが、再開発の話をしていた。

「ねえ、あそこ、内廊下なの?」
「知らない。エントリーした人だけが見られる“限定サイト”に書いてあるらしいよ」
「出た、限定。あれ、情報格差エグいのよね」

“限定”は、浦和では通貨になる。
金額より先に、情報が階層をつくる。

ユイは、工事フェンス越しに空を見上げた。
まだ塔は完成していないのに、人々の会話の中で、もう住民は住み始めている。
内廊下か外廊下か――それだけで、未来の自分の価値まで決まる気がしてしまう。

ユイは笑ってしまった。
コピーライターは、そういう“気がする”を売る仕事だ。

けれど、その夜、ユイのメモ帳に一枚の紙が挟まっていた。
どこで入ったのか分からない。名刺でも広告でもない、細い紙片。

そこには、鉛筆でこう書いてある。
「風を返せ」


第三章:武蔵浦和、風のある廊下

武蔵浦和の友人ミナの家は、タワーだけれど、内廊下ではなかった。
共用廊下に出ると、風がいる。電車の音が遠くから届く。洗濯洗剤の匂い、夕飯の湯気、ベビーカーのタイヤ痕。

「これがさ、現実じゃん」

ミナは、廊下に出て髪をまとめながら言った。

「内廊下って憧れるけど、あれって…“誰とも関わらなくていい権利”を買ってるんだよね。
でもさ、子どもがいると、関わりゼロは無理」

ミナの子が、廊下で転んで泣いた。
すぐに隣の住戸の女性が出てきて、絆創膏をくれた。

外廊下には、季節だけじゃなく、他人がいる。
その“他人”は、面倒な日もあるけれど、助けになる日もある。

ユイは、紙片の言葉を思い出す。
風を返せ。
それは、豪華さへの反抗じゃない。
“関わり”への渇望なのかもしれない。


第四章:川口、境界の街のタワー会議

川口は東京に近いぶん、心も近い。
だからこそ、埼玉の中で一番「比べる」街だ。
家賃、通勤時間、ブランド、そして――廊下。

ユイが参加したのは、マンション管理組合の公開説明会だった。
議題はゴミ置き場の運用と、宅配ボックスのルール。
なのに会場の空気は、廊下の話に吸い寄せられる。

「内廊下は、においがこもる」
「いや、換気がちゃんとしてるところは違う」
「外廊下は寒い」
「寒いのは当たり前でしょ、季節なんだから」

季節を“当たり前”と言える人と、言えない人がいる。
その差は、年収でも階数でもない。
多分、“どこから来たか”だ。

会議の最後、ユイはひとりの老人に呼び止められた。
古い鋳物工場をやっていたという、源造さん。

「風を返せ、って紙…あんたが持ってたな」
「え?」
「この街はな、昔は風に金属の匂いが混じってた。今は、何も匂わない。
匂わないってのは、きれいってことだ。だが、きれいすぎると、何が生きてるか分からなくなる」

源造さんは笑った。
「内廊下は、きれいな墓場にならなきゃいい」


第五章:川越、内廊下に染み込む甘さ

川越駅前は、人の温度がある。
小江戸の通りへ向かう道に、甘い匂いが漂う。芋、醤油、炭。
歴史の匂いは、どんな高層階にも追いかけてくる。

ユイが訪れた川越のタワーは、エントランスからして“きれい”だった。
内廊下は静かで、照明は柔らかい。壁は白く、音は吸われる。

でも――
ユイは気づいた。
内廊下の奥の方に、ほんの少し、甘い匂いがいる。
外の町の匂いが、どれだけ封じても、どこかから入ってくる。

その夜、ユイはまた紙片を受け取った。
今度は郵便受けの中に、封もなく置かれていた。

「内廊下に、季節は入ってくる」
そう書かれていた。

ユイは笑った。
風は消せない。匂いも消せない。
人も、消せない。


エピローグ:大宮、風の改札(ふたたび)

大宮に戻ると、改札の風は相変わらず忙しかった。
ユイはベンチでメモ帳を開き、紙片を並べた。

  • 風を返せ
  • 内廊下に、季節は入ってくる

答えは、たぶん単純だ。
内廊下が悪いんじゃない。外廊下が正しいんでもない。
“何を消して、何を残すか”――その選択が、暮らしそのものになる。

ユイは新しいタイトルをメモに書いた。
『内廊下に、風は吹くか』

そして、最後の一行を付け足す。
「吹く。人が、扉を開けるかぎり」

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